制御工学における基礎知識学習システム
PID補償器
ここではPID補償器の設計について示します。詳しくは制御工学の本などを参照してください。
現在工場や化学プラントなど工業的に用いられているコントローラーの半分以上はPID、もしくはそれに関する制御系です。PIDの対象となるものの例としては液体、気体、電気・電子系、及びそれらの組み合わせなどです。しかしながら多くはマイクロコンピューターやマイクロプロセッサなどで制御系を構築するため、実用的観点からそれらの対象をよくデジタルの形式で扱います。また現在工場などでは主にI-PDや2自由度PID制御など、PID制御系から派生したものがよく使われています。
次の図は一般的なPID導入時のシステム全体を示したものです。制御対象の数学的記述が与えられている場合に、全体の定常状態や過渡状態のふるまいをスペックに合致するように補償器を調整します。
図:PIDの構成図
R(s):目標入力 U(s):偏差 X(s):制御入力 Y(s):制御出力
G(s):制御対象(伝達関数)
ただし制御対象の動特性を把握しにくいなどの原因によって数学モデルの記述が難しい場合があります。そのような時、補償器の設計を解析的に求めることが困難です。この場合、大半は実際に動作させることによってPID補償器を調整します。特にジグラー(Ziegler)とニコルス(Nichols)によって、実測による調整則が提案されています。ひとつが「限界感度法(ultimate sensitity method)」、もうひとつが「ステップ応答法(step response method)」と呼ばれるものです。
ただしこのシステムではZiegler-Nichols法による調整法を使わず、さらに発展させた調整法を用いています。
ここで、本システムで用いている解析法を簡単に説明します。
PIDコントローラーによる閉ループのゲインは次のようになります。
G(s)がn次であったならば、全体システムはn+1次となります。また偏差定数は定常誤差の逆数です。
定常誤差が分かれば、前述の方程式からKiを導くことが出来ます。また行き過ぎ量と整定時間などの時間応答における特性によって、全体のシステムの減衰係数と固有振動数が分かります。そして閉ループの固有振動数から開ループのゲインクロスオーバー周波数、閉ループの減衰係数から求めるべき位相余有が分かります。よってゲインクロスオーバー周波数において、改善したシステムのゲインが1、位相が180度+位相余有となります。
そして上記の条件から次の式を解きます。
書き換えると次のようになります。
ここで簡単にP(比例)、I(積分)、D(微分)補償の特性についてボード線図を用いて示します。
1.比例(定数)補償:Kp
次のような場合を考えます。
このときボード線図は次のようになります。
このように、ゲインがKpの値で桁上げされ、周波数によらず一定であることが分かります。
2. 積分補償
積分補償による振幅は次のような式で表されます。
又は
つまりボード線図の振幅では角度が-20dB/decの直線で表されます。
一方位相は
となり、周波数によらず一定です。
次の図はKi=1とした時のボード線図を示しています。
3.微分補償
微分補償の振幅は次のように表されます。
又は
つまりボード線図の振幅では角度が-20dB/decの直線で表されます。
一方位相は
となり、周波数によらず一定です。
次の図はKd=1とした時のボード線図を示しています。